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中央銀行デジタル通貨(CBDC)とは 仮想通貨との関連は?【中国が本気】

いまや電車に乗る際に、現金で切符を買う人はほとんどいないでしょう。

皆さんの多くは、SuicaやPASMOで電車に乗り、世の中はキャッシュレス化が進んでいます。

また、スーパーマーケットやネットショッピングをする時も、現金支払いをせずクレジットカードを使う人も多いでしょう。

 

日本はキャッシュレス後進国と言われていますが、それでも少しづつは現金を使用する機会が減ってきていると言えます。

PayPayやLINE Payといった新たな決済アプリが登場し、使ったことがある人もいれば、それ自体がどういうものか良く分かってないという方も大勢いるでしょう。

しかし、時代はさらに進んでおり、中央銀行が発行する紙幣がデジタル化する時代がやってこようとしています。

CBDC(Central Bank Digital Currency,中央銀行デジタル通貨)は、いまや世界中で議論が交わされ、新たな時代を迎えようとしています。

 

今回はCBDCとはいったいどのようなものか、仮想通貨との関わり、今後の展望について解説します。

 

CBDC

CBDCとは?

CBDC

CBDCとはCentral Bank Digital Currencyの略で、中央銀行デジタル通貨と訳されます

その名の通り、中央銀行が発行するデジタル通貨のことです。多くの場合はスマートフォンを用いて使用します。

CBDCを使えば、商品を買う際に使う現金の代わりにもなりますし、子供にお小遣いを渡す時、給料を渡す時など他人にお金を渡す際にも使用することができます。

 

日本や世界のほとんどの国では、まだ本格的なCBDCは導入されていません。

しかし、2020年7月、日米欧の先進7カ国(G7)が中央銀行によるCBDCの発行に向けて連携する方針を固めるなど、世界はCBDC発行に向けて進み始めています。

 

ただし、国が発行するお金が全てデジタル化したところで、なんのメリットがあるのか分からないという方や、そもそも現金主義を貫いている方からしたらむしろ嫌な方向に進んでいると感じるかもしれません。

この記事では、CBDCを導入することで我々国民が得られるメリット、デメリットについても解説させて頂きます。

CBDCを導入することで得られるメリットは?

CBDC

なぜ現金じゃなくてCBDCを使う必要があるのか、と思う方が多いでしょう。

ここではCBDCを使うことで得られるメリットを紹介します。

銀行口座を持たない人でも金融サービスを受けれる(金融包摂)

世界中には銀行口座を持てない人々が約17億人いると言われています。

我々日本国民にとって、銀行口座を持つことができないということは想像することが難しいですが、口座を持てなければ様々な問題が発生します。

たとえば、例えば家賃の支払いを口座引き落としにできないため、とても面倒ですが、現金を家主に持って行って払うしか方法がありません。ネットショッピングをする時も、わざわざコンビニまで出向いて現金払いをする必要があります。

日本人ならクレジット決済で一瞬で終わることを、こんなに手間をかけて行う必要があります。

 

また、中小国では家族を養うために他国へ出稼ぎに行く人が多く、その際海外で儲けて家族に仕送りを送ろうとしても、銀行口座がなければ当然それもできません。

たとえ銀行口座があったとしても、海外送金には大きな手数料がかかってしまいます。

 

そこで、CBDCを使えばスマホ一台で手軽に銀行を介さずに送金することが可能になります。

実は17億人の銀行口座を持たない人のうち、10億人はスマートフォンを持っているのです。

また、銀行などの金融機関を介さずに送金できるので、高い手数料が取られることもありません。

企業活動における海外送金が楽になる

CBDCの恩恵を受けるのは銀行口座を持たない貧困層だけではありません。

企業や大富豪など、海外送金を頻繁に行う人からすればCBDCの恩恵を大きく受けることができます

 

銀行などの金融機関は取引手数料(特に海外送金)を多額に取る上、送金完了までに時間がかかりました。

それがスマホ1台ですぐに完結し、取引手数料もほぼかからずに済むのであれば、CBDCを使わない手はないでしょう。

倒産リスクがない

我々国民は預金をする際に銀行を活用しますが、銀行は中央銀行を除いて民間銀行ですので倒産する恐れがあり、預金が失われてしまう恐れがあります。

しかしCBDCのデジタル円は現金同様に日本銀行が発行するために絶対安全な資産です。

そのため、もし日本でCBDCが導入されデジタル円が発行された場合、多くの預金はCBDCに移ると考えられます。

政府の金融政策がより正確に行えるようになり、犯罪防止にもなる

経済が成熟した現代では、あらゆる国家の国民は何十億ドルもの取引を行っており、その結果政府はそのお金の流れを把握しきれておらず、経済の予測を立てるのに苦労しており、予期せぬインフレなどを招いてしまうことがあります。

そこで国家主導のCBDCを導入すれば、国民のCBDC利用データを吸い上げることができるようになります

そうすれば、金融政策の効果の是非がリアルタイムで確認できるようになり、金融政策をより正確に行うことができます。

また、利用データを活用することで脱税やマネーロンダリングといった犯罪行為の捕捉・防止にもつながると言われています。

 

他にも、メリットとして『現金に関わるコストの軽減』や『決済など金融分野の効率化と安定性の確保』、『キャッシュレス化を含む経済社会のデジタル化・イノベーション』が挙げられます。

CBDCと仮想通貨,電子マネーとの違い

仮想通貨

現金を持ち歩かず、PayPayやクレジットカード、Suicaを使い脱現金をしている人からしたら、こういったキャッシュレスのものとCBDCの違いが理解できないかもしれません。

海外送金をせず、銀行口座を持っている我々からすれば、既存のPayPayやクレジットカードとCBDCは使用目的が同じで恩恵がないように思えるかもしれません。

また、海外送金が手軽にできるという点や目に見えない通貨という点では非常に仮想通貨と似ており、何が違うのか疑問に思うでしょう。

ここではCBDCと仮想通貨や電子マネーとの違いについて見ていきます。

CBDCとクレジットカードやSuica,PayPayなどの電子マネーとの違い

電子マネーとCBDCの違い1.民間か国営か

クレジットカードやPayPayは国家主導のものではなく、民間企業によって運営されています。

クレジットカードはJCBなど,PayPayはソフトバンク株式会社とヤフー株式会社の合弁会社です。

クレジットカードが使用できるお店はかなり増えましたが、それでもまだ小さな商店などは使用できなかったりします。ましてやPayPayなどはさらに使える店が少ないのが日本の現状です。

 

こういった電子マネーが店舗に導入されないのは手数料の高さが最大の原因です。民間企業は利益を追求するので、手数料がかかるのは至極当然ですが、それがキャッシュレス化の大きな妨げになっているのが現状です。

 

一方でCBDCは国営で、中央銀行が発行します。国家主導のCBDCを導入すれば、現金のデジタル版であるCBDCで、現金同様手数料がかからないため、理論上はすべての店舗でCBDCでの支払いが可能になります。

また、中央銀行が発行するため、倒産のリスクがないのも大きなメリットでしょう。

民間企業は業績が悪化すれば倒産するかもしれません。

電子マネーとCBDCの違い2.小口と大口

PayPayやSuicaは銀行口座からチャージをして支払いに使う、いわば小口です。

Suicaに1億円を入れているという人は存在しないでしょう。

 

しかし、CBDCはわざわざチャージをする必要がなく、現金と同様保有している分だけ使用することができます。

CBDCと仮想通貨の違い

仮想通貨

上記ではPayPayなどの電子マネーとCBDCの違いを見ましたが、ここではCBDCと仮想通貨の違いを見ていきます。

もともとCBDCはビットコインの概念を受けて触発されたもので、似ている点が多くあります。

 

CBDCのメリットのところで述べた『海外送金が手軽になること』、『銀行口座を持たない人が金融サービスを受けれるようになる(金融包摂)』といったことは仮想通貨も同様です。

エルサルバドルという中南米の国が仮想通貨の代表格ビットコインを法定通貨にしたのも、上記のメリットを活用する狙いがあったからです。

CBDCと仮想通貨の違い1.管理主体の違い

CBDCは政府機関である中央銀行が発行し中央銀行が中央集権的に管理しますが、ブロックチェーン技術を活用した仮想通貨代表格のビットコインは非中央集権的で、直接民主主義政治のような形で、多数のユーザーによる投票などの合意形成を通じて最終的な意思決定を行います。

つまり、ビットコインは政府による干渉を一切受けることがないのが特徴です。

しかし、ビットコイン以外にも多くの仮想通貨が存在し、たとえばドルの価値と連動するUSDTという仮想通貨はテザー社が管理しています。

 

CBDCは政府機関、仮想通貨は管理主体がない、もしくは企業が管理主体ということになります。

CBDCと仮想通貨の違い2.価格変動の大きさ(ボラティリティ)

ビットコインやイーサリアムといった皆さんが想像するような仮想通貨は、価格の乱高下が激しいです。1日で10%程度価値が変動することも珍しくありません。

そのため、通貨としては使いづらいという面があったのを受けて、仮想通貨の正式名称は『暗号資産』に変更されています。

2018年12月14日に金融庁は仮想通貨の名称を『暗号資産』に改めましたが、今でも仮想通貨という名称が広く一般的に使用されているため、この記事では仮想通貨で統一させていただきます。

一方でCBDCは中央銀行が発行する通貨のデジタル版なので、円やドルの価値が乱高下しない限りCBDCも激しく価値が乱高下することもなく、ビットコインなどの仮想通貨と比べれば非常に安定した価値を保てます

 

ならばドルと価値が連動している仮想通貨USDTなどのステーブルコインを使えば、ビットコインのように価値が乱高下しないので、CBDCでなくても良いじゃないかと思う方もいるでしょう。

USDTやBUSDのように価格が安定するように設計された仮想通貨を、ステーブルコイン(Stable:安定した)と言います。

そこで、Facebook社(現Meta社)がステーブルコインであるLibraという仮想通貨の開発を、世界通貨にするという野心と共に続けました

しかし、2022年、この構想は断念されました。

世界通貨Libraが失敗に終わった理由

Libra

Libraは2019年6月、フェイスブック(現Meta)を中心に、ビザ、マスターカード、ウーバーなど世界的な企業が参加して立ち上げられただけに絶大な注目を集め、世界通貨を目指しましたが2022年完全失敗に終わってしまいました。

Facebookには25億人の利用者がいるのにも関わらず、失敗しました。

その理由としては、各国政府や各国の中央銀行から強烈な反発を受けたからです。

 

もし民間企業の通貨が世界で使われるようになってしまえば、各国政府独自の金融政策を行うことができなくなってしまうからです。

EUにおいて、ユーロを使うギリシアが金融政策を実行できずに破綻したのと同じ理論です。

 

Libraはそのような批判にあい、国家の利益と権力と衝突し、「通貨の発行は国家の独占事業ではないか」という問題にまで発展し、最終的に2022年にLibra構想自体が断念してしまいました。

 

民間企業がダメならば、国家がやれば良いのでは?となり、さっそく大胆に動き始めたのが中国でした。

 

デジタル人民元の普及を急ぐ中国

Facebook社(現Meta社)のLibra世界通貨構想が失敗に終わりましたが、影でデジタル通貨の普及を目指していた国が中国でした。

中国はGDP2位まで急成長を遂げ、米国と覇権争いをしていますが、まだ中国の通貨「人民元」は世界的に見れば取引高がかなり少ない状況(2022年3月時点で3%以下)で、この分野ではアメリカにだいぶ負けてしまっています

デジタル人民元
(画像出典=三井住友アセットマネジメント なるほど!ザ・ファンドVol.49)

中国は人民元の国際的な普及を目指し、基軸通貨ドルを追い越すことを狙っています

そこで活用されているのが「デジタル人民元」、中国のCBDCなのです。

 

中国は、デジタル人民元発行を起爆剤にして人民元を国内だけでなくアジアやアフリカに進出し国際化を進め、基軸通貨ドルと対抗しようとしているのです。

 

これは日本に関係のない話ではないでしょう。たとえば、日本企業が中国と貿易する際に、海外送金手数料がかからないことを理由にデジタル人民元での決済を要求されるかもしれません。

日本国内でも、デジタル人民元を保有する人が増える、といったことが近い未来に起きてもおかしくありません。

 

すでに中国ではデジタル人民元が使われ始めている

デジタル人民元
出典:Leader Insights In May China’s digital currency to be used for transport payments in Suzhou https://www.ledgerinsights.com/china-digital-currency-transport-payments-in-suzhou/

中国では、2022年冬季北京五輪でデジタル人民元を試験的に導入しました。

ロイター通信によると、1日当たり200万元(31万5761ドル)以上使用されました

(出典:ロイター 京冬季五輪のデジタル人民元実験、使用は1日31.5万ドル超=人民銀 https://jp.reuters.com/article/olympics-2022-digitalcurrency-idJPKBN2KL0CB)。

 

北京五輪の前からも、上海市、北京市、蘇州市などを対象に試験的に導入されていました。

特にこれまでのところ重大な欠陥の報告などはなく、順調にデジタル人民元の浸透が進んできていると言えるでしょう。

欧米や日本のCBDCの状況は?

現金使用率2%のスウェーデン

欧州では、スウェーデンが最もCBDCの研究が進んでいます

スウェーデンはEU加盟国ですがユーロ圏ではないため、独自通貨『クローナ』を使用しています。

スウェーデンではもともとキャッシュレスがかなり進んで現金利用者のほうがマイノリティになってしまいました

スウェーデン
スウェーデンの現金(赤線、左目盛、10億クローナ)とGDP比率(青線、右目盛り、%)出典:スウェーデン中央銀行

ほとんどの来店する客は、カードや電子決済で支払うようになり、現金を管理するためのレジの存在意義が薄れ、現金お断り』のお店すら増えてきてしまったのです。日本に住んでいる我々からすれば想像もできません。

キャッシュレス
出典:ダイヤモンドオンライン 「現金お断り」のスウェーデン
背景にマイナス金利の余波も https://diamond.jp/articles/-/100175

いまやスウェーデンで現金を使用する人は2%以下にまで減少してしまいました。

そのため、国家主導でCBDCの研究を早い段階から始めていたのです。

デジタルユーロ(ヨーロッパ)

デジタルユーロ

EUもCBDCの研究を行っていますが、スウェーデンや中国と比べるとかなり遅れています。

欧州中央銀行は2023年初頭にCBDC デジタルユーロの法案を提出することを検討している段階で、予想では2026年にはデジタルユーロが流通するのではないかと言われています。

デジタル円(日本)

デジタル円
出典:ダイヤモンド・オンライン 「デジタル円」はいつ始まる?実現に向けた課題を解説
https://diamond.jp/articles/-/288177

日本では2021年4月にデジタル円の概念実証をスタートし、2026年までにはデジタル円を発行して流通させることができるかどうかを最終決定すると日本銀行の黒田総裁は述べています。

つまり、現状では日本はCBDCであるデジタル円の発行予定は今のところありません

 

そもそも、日本は現金主義の方が多くおり、店舗側もキャッシュレス決済を導入しようとしても手数料が高く断念することもあり、キャッシュレスがそこまで進んでおらず、現状CBDCを導入するのが難しい状況です。

デジタルドル(アメリカ)

アメリカのFRBは、デジタルドルについてかなり慎重で消極的な姿勢を崩していません。

2022年1月20日のFRBの報告書では、「政府や議会が新たな法制化などを通じてCBDCの発行を明確に後押ししない限り、FRBが発行計画を進めることはない」と明言しており、現時点でデジタルドルの発行予定はありません

 

それではなぜアメリカや日本などはCBDC導入に消極的なのでしょうか?

日本や米国がCBDC発行に消極的な理由

日本銀行

中国やスウェーデン、EUなど多くの国がCBDC発行に積極的にもかかわらず、日本やアメリカがCBDC発行に消極的な理由はなんなのでしょうか。

その理由を理解するには、現行の銀行について考える必要があります。

国民が銀行に預金をする理由は…

我々国民が銀行に預金するのは、なんのためでしょうか。

家に置いておくのが怖い、口座引き落としなどの支払い手段に使うなど、こういった目的の人が多いでしょう。

今時、利子目的で預金している人など、超低金利な日本じゃほぼ絶滅してるでしょう。

 

現行の銀行は、利子をほぼ付けなくとも国民の多くが預金をしてくれて、その国民の預金を企業などに貸して利子を得る、いわゆる金貸し業です。

しかし、もしCBDCが一挙に普及してしまったらどうなるでしょうか。

多くの預金がCBDCに移ると考えられます。

CBDCが発行されれば銀行の地位低下はほぼ確実

銀行は民間企業が運営しているものなので、倒産リスクが伴います。

あなたが預金している銀行が倒産すれば、ペイオフはあれども預金が失われてしまう恐れがあります。

ペイオフとは金融機関が破綻した場合に、預金保険機構が元本1,000万円までとその利息の払い戻しを保証する仕組みのことです。

 

できれば、倒産リスクが限りなく少ない安全な場所に資金を置いておきたいと思うのが普通でしょう。

CBDCのデジタル円は現金同様に日本銀行が発行するために絶対安全な資産で、倒産はしません。

 

なのでもしCBDCのデジタル円が発行された場合、多くの銀行に預けられていた預金は大量にCBDCにシフトすることは必至といえるでしょう。

銀行から預金がなくなってしまえば、企業などへの貸出機能が失われ、銀行の存在意義が最終的には失われてしまう恐れがあります。

 

そのため、既得権益などの関係上、CBDCの発行にはアメリカや日本では重い腰となっているのです。

CBDCが登場すれば、キャッシュレス社会への決定打になる

クレジットカード

現状日本ではCBDC発行に消極的ですが、もし今後デジタル円が登場すれば、キャッシュレス社会への決定打になるでしょう。

もちろん、デジタル円が登場したからといってすぐに紙幣や硬貨がなくなるわけではありません。しかし、手数料無料で決済や送金に利用できて、倒産リスクもないデジタル円が登場すれば、現金への風当たりが強くなるのは避けれないでしょう。

ATM関連のコストだけで年間7000億円のコストがかかっていると言われており、そのコスト削減のためにも、少しづつ現金が淘汰されていくでしょう。

  • この記事を書いた人

中垣 幸之輔

『日本人の金融リテラシーをあげること』をモットーに、仮想通貨やNFT,DeFiといったWeb3.0領域を中心とした経済系の発信を行っています。
【遊んで稼ぐを応援するGanverse Media】の公式ライターとして活動中。 ガンバースはGameFi(BCG)、NFT、メタバースのニュースメディアです。 https://ganverse-media.jp/author/008/

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