2021年6月、エルサルバドルが世界で初めてビットコインを法定通貨として認定したことで、仮想通貨市場に大きな話題をもたらしました。
そして半年以上が経った今、エルサルバドルはいったいどのような状況になっているのでしょうか?
ビットコインを法定通貨にするという前代未聞の試みを、世界中の国家は見守っています。
ビットコインを法定通貨にすることでエルサルバドルはメリットを得たのでしょうか。
そもそも、なぜエルサルバドルはビットコインを法定通貨にしたのでしょうか?
この記事では、エルサルバドルの現状や問題点、そしてビットコインを法定通貨にすることで得たメリットなどを解説させて頂きます。
なぜエルサルバドルはビットコインを法定通貨として認定したのか
この記事の結論
- 銀行口座を持たないでも金融サービスを受けれるようにするために、ビットコインが法定通貨になった
- ビットコインを法定通貨にすることで投資家や仮想通貨関連企業の進出を狙う
- ビットコインを法定通貨にしたことで、インフレ・差別予防につながり、公共事業を生み出した。ビットコインが将来的に値上がりすれば経済が潤う可能性も(現状は含み損)。
- エルサルバドル国民は、ビットコインのリスクを嫌がり、現状ビットコインよりも米ドルを好んで使用している。
- 世界からは、エルサルバドルはビットコイン実験場とみており、この実験が成功すればさらに法定通貨にする国が増えるかもしれない
エルサルバドルがビットコインを法定通貨として扱う理由

エルサルバドルのビットコイン政策が成功しているかどうかを知るためには、まずなぜ法定通貨にしたのかという背景を知ることが重要です。
まずはエルサルバドルの経済的状況や経済活動について知る必要があります。
エルサルバドルの国民の7割が銀行口座を持たない
我々日本人にとって、銀行口座があるというのは当たり前のことです。
銀行口座があることによって、銀行口座引き落としやクレジットカードを使用することができ、現金を持ち歩かなくても気軽に決済できるのが当たり前の世界です。
しかし、エルサルバドル国民の7割が銀行口座を持たないのです。
エルサルバドルに限らず、世界銀行によると世界の貧困層の4人に3人が銀行口座を持っていないと発表しています(出典:世界の貧困層の4人に3人が「銀行口座持てず」-新データベース)
銀行口座を持てないと、様々な問題が発生します。
例えば家賃の支払いが口座引き落としができないため、とても面倒です。現金を家主に持って行って払うしか方法がありません。
また、エルサルバドルのような中小国で経済的にも発展途上の国は、海外に出稼ぎに行く人も多く、その際海外で儲けて家族に仕送りを送ろうとしても、銀行口座がなければ当然それもできません。
たとえ家族が銀行口座を持っていたとしても、海外送金は高額な手数料がかかってしまいます。
ちなみに、世界銀行によると2020年度のエルサルバドルのGDPの約24%が送金によるものだったと報告しています。
口座を持たない人を救うためのビットコイン
ビットコインは、スマホさえ持っていればすぐに送金することができます。
また、送金手数料もほぼかかりません。
エルサルバドルのような大半の国民が銀行口座を持たず、海外へ出稼ぎに行く人が多い国にとってはドンピシャの通貨なのです。
家賃もビットコインを使えば現金を持ち歩く必要はありませんし、海外送金もボタンを押すだけで手数料もほぼかからず送金できます。
つまり、口座を持たない人に対し救いの手を差し伸べる手段として選ばれたのがビットコインなのです。
ビットコインを法定通貨にすることで国への投資を促進
ビットコインを法定通貨にすることで、世界中の仮想通貨ファンや仮想通貨関連企業から注目を集めることに成功しました。
中南米にある中小国は知名度もあまり高くありませんでしたが、この出来事で世界中に名を轟かせることになりました。
将来的には世界中の仮想通貨関連企業や投資家からの投資を呼び込み、もしビットコインの1%がエルサルバドルに投資されれば同国のGDPを25%上げることができるとブケレ大統領はよんでいます。
米ドル依存からの脱却
世界の基軸通貨は米ドルですが、近年米ドル依存から脱却しようとする国家が増えてきています。
特に中国は人民元の国際化を目指し、いち早く米ドル依存から抜け出そうとしています。
ウクライナ情勢で世界を騒がせているロシアも、米国からの経済制裁のダメージを軽減するために米ドル依存から脱却しつつあります(出典:https://toyokeizai.net/articles/-/425715)。
エルサルバドルのように米ドルを自国の通貨としている場合、アメリカの金融政策がダイレクトで影響を与えます。
例えばアメリカが金融緩和のために米ドルを大量に発行した場合、エルサルバドルは金融緩和をしたくないにもかかわらず影響を受けてしまいます。
そのためリスクヘッジとして、ビットコインを第2の法定通貨にすることはある意味合理的と言えるでしょう。
ビットコインを法定通貨にすることで得たメリット

将来的にビットコインが値上がりすれば裕福になれる
ある意味では、国民の税金で大規模なリスクの高い投資をしているわけです。
エルサルバドル政府は1800ビットコインを保有していると言われており(2022/2月現在)、もしビットコインが将来的に大幅に値上がりすればエルサルバドルの経済は潤うでしょう。
インフレ予防
南米の多くの国は激しいインフレーションに見舞われており、自国通貨の価値暴落に悩まされています。
ベネズエラでは2020年のインフレ率が6500%にまで登り、小額紙幣が完全に役に立たなくなってしまった状況です。
しかし、ビットコインの供給には限度があり、2100万ビットコインしか地球上に存在しないことになっています。だからビットコインの需要が増えればその価値は高まりますし、インフレが起きる確率は限りなく0に近いでしょう。
差別の防止
ほとんどの国の通貨とは異なり、ビットコインは政府や中央銀行によって発行されるものではないためどこかの組織がビットコインに干渉することはできません。
これはブロックチェーンという技術革新を用いることによって実現しました。
口座を持たない貧しい人でも裕福な人でもみな平等にビットコインを使うことができ、投資をすることができるようになりました。
公共事業の拡大
ビットコインシティ(記事後半で解説)など、ビットコインによって様々な公共事業が生み出されました。
うまくいけば、世界中から仮想通貨関連企業や仮想通貨投資家が集まってくる可能性があり、目を離せません。
半年経った今、ビットコイン政策は成功しているのか

エルサルバドルは現状含み損を抱えているが…
エルサルバドル政府はビットコインを法定通貨にして以来、ビットコインが暴落してもそのたびに押し目買いをしてきました。
エルサルバドル政府は1800ビットコイン以上を現在保有していると言われています。
しかし、エルサルバドル政府は現状1500万ドル程度の含み損を抱えています(2022/02/13現在)。
ただし、1500万ドルがそれほど問題ではないという指摘もあります。GDP比で考えれば1%以下の水準なので、この程度の含み損は取るに足らないというものです。
仮に今すぐにビットコインが完全に無価値(0円)になっても、GDP比で言えば3%の損失で留まるようです。
また、エルサルバドルの法定通貨はビットコインだけでなく米ドルも使用できるため、ビットコインを導入したことによるリスクは巷で言われているほど大きくないと思われます。
内閣支持率8割越え
エルサルバドル政府のビットコインを購入する資金はどこから出ているかと言えば、もちろん税金からです。
国民の税金で購入したビットコインが、価値が現状購入時より低く損をしているということは国民の資産を毀損したと言えるでしょう。
しかしそれでも、エルサルバドル政府の内閣支持率は8割前後と非常に高い水準で安定しているのです。
ビットコイン政策で支持率を上げたかどうかは微妙ですが、ブケレ大統領の政治的手腕が評価されているようです。たとえば、犯罪率の大幅低下などが挙げられます。
ブケレ政権への支持率が高い限りはビットコイン推進政策が続くでしょうから、今後に期待がかかります。
ビットコイン決済アプリ「Chivo」普及率は…
ビットコインで支払いするときに使うアプリである「Chivo」のユーザーは現在400万人以上を抱えており、エルサルバドルの人口は650万人ですので約60%が国民に普及しています。
しかし、この数字にはからくりがあると言われています。
エルサルバドル政府はビットコイン決済アプリであるChivoを普及させるために、ダウンロードしたユーザーには30ドル相当のビットコインを提供していました。
その30ドル分のビットコインだけ受け取り、その後は使用していないユーザーもかなり多いようです。やはり慣れ親しんだ米ドルを安心して使いたいという気持ちがあるようです。
ただ、エルサルバドルの多くの店はビットコインでの支払いを受け付けています。
また、Chivo自体にも多くの問題点があると言われています。
個人情報の盗難やトランザクションの失敗など、重大な問題を抱えています。
そこでエルサルバドル政府は米国企業を招集してChivo改善に取り掛かっている最中です。その結果少しづつアプリは改善してきているようです。
法定通貨にしたことによる問題点

ビットコインを法定通貨にしたことで、当然様々な問題点が指摘されています。
IMFからもエルサルバドルに対し見直し要求をし、格下げをしました。
ここでは現在浮き彫りになっている問題点について整理します。
ビットコインの価格変動が大きい
一番大きな問題点は、やはり価格変動です。
ご存知の通り、ビットコインは価格変動が大きく、投機目的で購入されることも多いです。
そのため、お店がビットコイン支払いで多くの利益を得ても、ビットコインが暴落すれば儲けが減ってしまいます。
ビットコインだけで生活をするというのは、なかなか現状では難しいでしょう。
環境負荷
エルサルバドル政府はビットコインを法定通貨にしただけでなく、マイニングにも力を入れようとしています。
以前、ビットコインマイニングは多くの電力を消費し、場合によっては化石燃料なども使うため、環境に悪影響であるとイーロンマスク氏が唱えました。
しかしエルサルバドルのマイニング計画では、再生可能エネルギーの一つである火山エネルギーを使用して行うというものなので、環境面には優しいとされています。
消費者保護の問題
先述した通り、ビットコイン決済アプリChivoは個人情報の漏洩問題などが発生しています。
また、エルサルバドルに限りませんがビットコインなどの仮想通貨をハッキングして盗難するという事件も起こりえます。
現金と違い目に見えるものではないため、システムも理解しづらく、教育レベルの低い人だと誤った使い方をしてしまう恐れがあります。
今後の展望

それでは、エルサルバドルがビットコインを法定通貨にしたことによって今後どのようになっていくでしょうか。
ビットコインシティ
ビットコインシティとはブケレ大統領が推進するエルサルバドル東部における仮想通貨経済特区のことです。
端的に言えば、仮想通貨投資家のためのタックスヘイブン(租税回避地)のようなもので、所得税や固定資産税、キャピタルゲイン税、給与税などはかかりません。
住宅街や商業地のほか、空港や港、道路といったインフラ整備も計画に含まれています。
世界中から仮想通貨投資家や仮想通貨関連企業を集めることを主な狙いにして、ビットコイン主導の経済成長を狙っています。
このビットコインシティ構想が上手くいけば、エルサルバドルは仮想通貨市場における一大国家になりえるでしょう。
ビットコインの通貨のトレンド
エルサルバドルだけでなく、南太平洋の島国トンガでもビットコインを法定通貨にする法案が準備されています。
トンガもエルサルバドルと似た状況で、火山大国であり、国家GDPの40%程が海外からの送金によって成り立っています。
また、2022年1月に発生したトンガでの大噴火による被害が出た際に、ビットコインを用いた寄付が行われました。
手数料も安く、すぐに国境を越えての送金ができるビットコインが非常に役に立ちました。
これまでのすべての寄付に感謝し、感謝を送ります https://t.co/6bojLbwNVa
— Lord Fusitu'a (@LordFusitua) January 19, 2022
ロシアにおいても、ビットコインを法定通貨まではいかないものの通貨として認定する動きが2022年2月にありました。
エルサルバドルのビットコインを法定通貨にするという実験を見て、世界中の国家はビットコインとの向き合い方を改めていくでしょう。