2月24日、ロシアがウクライナへ侵攻し世界へ衝撃を走らせた時、投資家はリスクヘッジ(リスク回避)のため株式や ビットコイン といったリスク資産から金(ゴールド)などの安全資産へ資金を移動しました。
その影響で株価や ビットコイン といった仮想通貨は一時大暴落し、NYダウは一時800ドル下落、仮想通貨もビットコインやイーサリアムも同様に下落しました。
しかし奇妙なことに侵攻が始まって1日経った2月25日には、ロシアによるウクライナ侵攻で下落した分を取り戻し、2月28日にはさらに高騰し、ビットコインなどの仮想通貨は10%以上値上がりしました。
いったいなぜウクライナ情勢が悪化しつつある中で仮想通貨(ビットコインなど)は価格を回復し高騰したのでしょうか?
今回の記事ではロシアのウクライナ侵攻と仮想通貨への影響、関係を考察します。
ウクライナ侵攻とビットコイン
ルーブル暴落と仮想通貨

ロシアがウクライナに侵攻したことに対する強力な制裁措置として、SWIFTからロシアを締め出すことが決定されました。
SWIFTとは金融機関が国をまたぐ貿易などの決済や送金に使うシステムで、SWIFTを利用できなくなると、その国の企業は、貿易の決済が困難になり経済状況が悪化します。アメリカはこれまで他国に対し経済制裁を発動する際にSWIFTからの排除を盛り込んでいることが何度かありました。2012年にイランがSWIFTから排除された際、その年のイランのGDPは-7.4%になりました。
ロシアの銀行がSWIFTから締め出されると、ルーブルを持っていても簡単にドルなどの外貨に替えられなくなり、ルーブルの信頼感や価値が低下してしまいます。
2月28日にはルーブルの価値が一時30%低下し、ロシア中央銀行は20%の利上げを行いルーブルの価値暴落に歯止めを打とうとロシアはしていますが、それでもルーブルの価値の回復にはそこまで繋がっていないようです。
ルーブルが暴落すると困るのはロシア政府とロシア国民です。価値暴落中のルーブルをドルなどの外貨に変えようとしても経済制裁の影響で円滑に変えることができていません。
そこで利用されたのが、ビットコインなどの仮想通貨なのです。
ルーブルの逃避先としての仮想通貨

ロシア政府やロシア国民は、価値暴落中のルーブルを何か別の資産に変えておこうという動きが活発化しています。
外貨に変えるのが容易ではないので、たとえば、価値の貯蔵先として価値が安定している金(ゴールド)などがルーブルからの逃避先として考えられるでしょう。
テレビではロシアのあらゆる地域でATMに行列ができている状況が報じられています。

価値の貯蔵先は金(ゴールド)だけではありません。
スマホ一台あればすぐに購入できる資産…仮想通貨がルーブルの逃避先として選ばれているのです。
すでにルーブル建てのビットコインの取引量は過去最高水準まで高まっており、15億ルーブルを超えています。
また、ドルの価値と連動している仮想通貨USDT(テザー)においても、取引量が13億ルーブルを超えています。
このように、ルーブルを仮想通貨に変換する動きが非常に高まっているのです。
その結果、ウクライナ侵攻から5日間でビットコイン相場は13%上昇しました。
一方でS&P500は2%の上昇、金(ゴールド)でさえも侵攻当日に3.5%上昇したものの、それ以降は横ばいとなっています。
最近、ビットコインなどの仮想通貨は株価などと連動して動き、金(ゴールド)とは逆の動きをしていることが多くあり、ビットコインはデジタルゴールドなのか疑問視されることが増えてきました。
しかし、今回のウクライナ侵攻では株価との連動は小さく、有事の際のビットコインというようにデジタルゴールドとしての役割が果たされたと言えるでしょう。
(参考:ビットコインはデジタルゴールドなのか)
有事の際に購入されるビットコインなどの仮想通貨

戦争や金融危機などの有事が起きた際にビットコインなどの仮想通貨が買われるのは歴史を見れば明白でした。
2013年のキプロス危機では、政府が預金封鎖や預金に対する超高額な課税をしたことで、タックスヘイブンであるキプロスにいた富豪たちはいっせいにビットコインを購入しました。
その結果、ビットコインは高騰しました。
また、2018年からインフレが続き通貨トルコリラが暴落し続けているトルコでも、資産の逃避先としてビットコインなどの仮想通貨を選んでいます。
ビットコインなどの仮想通貨は、「ブロックチェーン」と呼ばれる技術によって、政府の保証もなければ、干渉もない、完璧に独立し暗号化された通貨として存在しています。
比較的価値が安定している円を使っている我々日本人にとって、なかなかこのようなことを実感するのは難しいでしょう。
しかし、もし自分の使っている円が明日にも紙切れになってしまう恐れがあるのだとしたら…すぐに資金を避難させることのできる仮想通貨は有効な選択肢の一つでしょう。
2月上旬からロシアはルーブルの避難先としての準備をしていた?

2022年1月までのロシア中央銀行は仮想通貨を全面禁止する方針を取っていましたが、2月上旬に入ると突然ビットコインなどの仮想通貨を「通貨」として認定し、合法化する法案の作成に入っていました。
ロシア政府やロシア中央銀行は、ウクライナ侵攻をすれば厳しい経済制裁を受けるとこの時点で見込んでおり、仮想通貨に目をつけていたとも考えられます。
また、プーチン大統領自身も資産を仮想通貨にしているという憶測が流れるほどになっています。
米国の財務省も、2021年10月の時点で仮想通貨の利用を放置すれば、「米国の制裁の効果を損なう可能性がある」と警告していました。
また、2022年3月3日、米国のイエレン財務長官はロシアのエリート層が制裁逃れの手段として暗号資産(仮想通貨)を利用する可能性があると言う懸念は承知しているとしながら、それを防ぐための法律があるとも指摘しました。
(出典:ロイター通信 米、ロシア制裁に「漏れ」あれば対処=イエレン財務長官)
ウクライナにおいても仮想通貨需要が高まる

ロシアの侵攻を受ける前から、もしロシアの侵攻を受ければウクライナの通貨「フリヴニャ」の信用が低下するだろうと見込んだウクライナの人々は手持ちのフリヴニャから仮想通貨に変換する動きがありました。
仮想通貨取引所であるユニスワップは、「ウクライナ国民の多くは、ウクライナ国内の銀行システムが崩壊するかもしれないことを憂慮し、安全な資金の逃避先として仮想通貨を求めている」といいます。
また、ウクライナ政府はTwitterで仮想通貨による寄付を受け付けると発表し、寄付を受け付けるビットコイン、イーサリアム、USDT、SOL,DOGEのウォレットアドレスを公開しました。
Stand with the people of Ukraine. Now accepting cryptocurrency donations. Bitcoin, Ethereum and USDT.
— Ukraine / Україна (@Ukraine) February 26, 2022
BTC - 357a3So9CbsNfBBgFYACGvxxS6tMaDoa1P
ETH and USDT (ERC-20) - 0x165CD37b4C644C2921454429E7F9358d18A45e14
@dogecoin exceeded Russian ruble in value. We start to accept donations in meme coin. Now even meme can support our army and save lives from Russian invaders. $DOGE owners of the world, @elonmusk, @BillyM2k, let's do it. Official $DOGE wallet: DS76K9uJJzQjCFvAbpPGtFerp1qkJoeLwL
— Mykhailo Fedorov (@FedorovMykhailo) March 2, 2022
仮想通貨は、金融機関を介さずに手数料もほぼかからず国境を越えての送金が可能です。
つまり、我々個人からウクライナ政府に直接寄付をすることができ、悪意ある者に奪われるといったことがないのです。
ここにきて、仮想通貨の強みが生きてきてると言えるでしょう。
ブロックチェーン分析企業Ellipticによれば、ウクライナ政府を支援するために、仮想通貨やNFTといったデジタル資産によって集まった寄付金は、3月2日時点で合計4,200万ドル相当(約48.5億円)に上ると言います。
また、ウクライナは仮想通貨の寄付を受けつける一方で、ロシアが仮想通貨で制裁逃れをしていると主張し、仮想通貨取引所に全ロシア人ユーザーの口座凍結を要求しました。
しかし、大手取引所のバイナンスなどは、「何百万もの無実なユーザーの口座を一方的に凍結することはない」としてこの要求を受け入れる様子は今のところありません。
ウクライナ侵攻は仮想通貨の将来を占う出来事になるか

今やウクライナを支援するため、ロシアの経済制裁逃れを抑えるため、世界中の国家、取引所、そして個人までもが仮想通貨に注目している状況です。
仮想通貨が普及して以来はじめての戦争で、時代を象徴しているとも言えます。
ウクライナ政府が寄付用の仮想通貨アドレスを公開し、戦争を戦い抜く為の武器となっています。
また、ロシア国民も仮想通貨を活用し、この不安定な時代を生き抜こうとしています。
しかし、ウォールストリートジャーナルによると、アメリカはロシアへの次なる制裁としてビットコインなどの仮想通貨へのアクセスを制限することを検討しています。
仮想通貨は「ブロックチェーン」と呼ばれる技術によって、誰からの保証もなければ、干渉もない、完璧に独立し暗号化された通貨なので、政府による干渉は不可能であるはずで、そうであるべきです。
また、世界から孤立を深めている侵略国家ロシアが制裁回避のために仮想通貨を使っているという事実は仮想通貨そのものの禁止議論につながりかねません。
もし仮想通貨が多くの国で禁止されてしまえば、仮想通貨の価値も一気に低下してしまうでしょう。
ロシアウクライナ戦争の結末は、仮想通貨の将来を占うものになるかもしれません。